草迷宮 (岩波文庫)のレビュー
幻想的な物語を、立体幾何学的構成で巧みに描いた秀作
鏡花特有の耽美性と幻想性とで読む者を「迷宮」に誘う妖異譚。だが、この「迷宮」性は作者の巧緻な構成によって更に高められている。物語の主人公は葉越と言う青年で、亡き母が教えてくれた"手毬歌"の魅力が忘れられないでいるが、その歌詞を忘れてしまったので、全国を行脚してその"手毬歌"を探している。南伊豆の秋谷と言う黒門の幽霊屋敷(洋燈や畳が舞い、怨霊が出る)の近くの霞川で綺麗な"手毬"を拾い、その縁で秋谷屋敷に逗留する。そこで、小次郎法師と出会い、自身の幼年時代を語るが、二人共怪異現象に襲われる。まさに魔界。時制を整理すれば次のようになるだろう。
(1) 茶店の老婆が法師に語る秋谷海岸の過去のエピソード
(2) 秋谷屋敷で葉越が法師に語る、葉越の幼年時代の思い出
(3) 怪異現象が葉越と法師を襲う秋谷屋敷の現在
この三つの時制と語り順を意図的に交叉させる事によって、物語に立体感と錯綜感を与えている。そして、法師の描き方からして、「法師=葉越の影(分身)」と考えられる。つまり、葉越の語りは独白であり、全ては葉越一人の夢の世界なのである。また、(1)の中で語られる嘉吉を助けて緑色の珠を与える美女、(3)で登場する死霊美女(菖蒲)は共に葉越の母であろう。即ち、「迷宮構造=母を中心とした葉越の夢の同心円」なのである。また、葉越の究極の夢は母胎回帰("手毬歌"は「...生れない前に腹の中で、美しい母の胸を見る」ようなイメージ)だから、「迷宮=子宮(産道)」と言っても過言ではない。村の産神様や崖上の子産石、姑獲鳥への言及が冒頭で出て来るのは、その象徴だろう。
緑色の珠、毛鞠、西瓜、月、瑪瑙と球形のイメージの強調も印象的。妖しくも美しい幻想的な物語を、立体幾何学的構成で巧みに描いた鏡花を代表する秀作。
(1) 茶店の老婆が法師に語る秋谷海岸の過去のエピソード
(2) 秋谷屋敷で葉越が法師に語る、葉越の幼年時代の思い出
(3) 怪異現象が葉越と法師を襲う秋谷屋敷の現在
この三つの時制と語り順を意図的に交叉させる事によって、物語に立体感と錯綜感を与えている。そして、法師の描き方からして、「法師=葉越の影(分身)」と考えられる。つまり、葉越の語りは独白であり、全ては葉越一人の夢の世界なのである。また、(1)の中で語られる嘉吉を助けて緑色の珠を与える美女、(3)で登場する死霊美女(菖蒲)は共に葉越の母であろう。即ち、「迷宮構造=母を中心とした葉越の夢の同心円」なのである。また、葉越の究極の夢は母胎回帰("手毬歌"は「...生れない前に腹の中で、美しい母の胸を見る」ようなイメージ)だから、「迷宮=子宮(産道)」と言っても過言ではない。村の産神様や崖上の子産石、姑獲鳥への言及が冒頭で出て来るのは、その象徴だろう。
緑色の珠、毛鞠、西瓜、月、瑪瑙と球形のイメージの強調も印象的。妖しくも美しい幻想的な物語を、立体幾何学的構成で巧みに描いた鏡花を代表する秀作。
最高の日本語美
草迷宮は、私が鏡花の文章に心酔する契機となった作品である。脳髄を揺さぶるような前衛性と、珠玉の言葉の美しさに
彩られた鏡花の文章は、かつて日本語が到達したもっとも崇高な美学の結晶といっても過言ではなかろう。
鏡花の文章は決して一般受けするものではない。しかし、だからこそ多くの人に薦めていこうと、そう思わせる作品である。
彩られた鏡花の文章は、かつて日本語が到達したもっとも崇高な美学の結晶といっても過言ではなかろう。
鏡花の文章は決して一般受けするものではない。しかし、だからこそ多くの人に薦めていこうと、そう思わせる作品である。
香りと匂い
寺山修司の映画「草迷宮」を観て 感嘆して 原作を手に取った。因みに映画「草迷宮」は 寺山の映画作品の中では最高傑作である。
原作も映画に負けず劣らず 幻想的である。鏡花独自の美文が繰り広げる世界は ケレンに満ちている。この世界には 全く馴染めない方も多いと思う。一方 もう大好きで どっぷりと漬かってしまう方もかなりおられるとも思う。
鏡花の映画化というと 鈴木清順の「陽炎座」が直ぐ思われる。清順と鏡花とは絶妙な取り合わせだが 寺山との相性も極めて良いと思う。寺山自身も臭みに満ちた映画作家である。鏡花の臭みとコラボした結果実に香しい映画が出来上がった。勿論「匂い」は強い。匂いの強い食べ物がしばしば非情に美味しいのは チーズや納豆だけではない。
原作も映画に負けず劣らず 幻想的である。鏡花独自の美文が繰り広げる世界は ケレンに満ちている。この世界には 全く馴染めない方も多いと思う。一方 もう大好きで どっぷりと漬かってしまう方もかなりおられるとも思う。
鏡花の映画化というと 鈴木清順の「陽炎座」が直ぐ思われる。清順と鏡花とは絶妙な取り合わせだが 寺山との相性も極めて良いと思う。寺山自身も臭みに満ちた映画作家である。鏡花の臭みとコラボした結果実に香しい映画が出来上がった。勿論「匂い」は強い。匂いの強い食べ物がしばしば非情に美味しいのは チーズや納豆だけではない。
明治のエンターテイメントホラー
異界が開けているのは、山深い森の中か、丘の先にある草原か。
「草迷宮」は若者の幻想を描いているのだと思います。親への憧憬とセクシャルな女。幻想世界に混沌と存在しています。男性の幻想を上手に小説に仕立てています。
私は「草迷宮」の三浦半島の自然の描写が好きです。武蔵野とは違う、ちょっと開放的な風景を楽しみました。その草原の一軒家が幽霊屋敷だった訳ですが、因縁話でもあり、ストーリーが冗長にならず、テンポがいいです。
もし泉鏡花が現代の作家だったら、すごいエンターテイメントホラーを書いてくれるに違いないと思います。
「草迷宮」は若者の幻想を描いているのだと思います。親への憧憬とセクシャルな女。幻想世界に混沌と存在しています。男性の幻想を上手に小説に仕立てています。
私は「草迷宮」の三浦半島の自然の描写が好きです。武蔵野とは違う、ちょっと開放的な風景を楽しみました。その草原の一軒家が幽霊屋敷だった訳ですが、因縁話でもあり、ストーリーが冗長にならず、テンポがいいです。
もし泉鏡花が現代の作家だったら、すごいエンターテイメントホラーを書いてくれるに違いないと思います。

最初から最後まで
この神秘的な雰囲気が
保たれているのですから、
好きな人にはたまらない作品でしょう。
それと後半の妖怪が出てくる
ところもまた必見。
それはそれは恐ろしい妖怪です。
もし現実世界にいたら
震え上がるでしょうが…いないので
ご安心を。
特に手毬唄の場面は
非常に神秘的な雰囲気と相成って
読み心地よく感じることでしょう。
やや旧文章が気になりますが
雰囲気を味わえばよいでしょう。